阿修羅界

阿修羅界

増一阿含経によれば、受形の大きい者で阿須倫王を過ぎるものは無い。形の広長は八万四千由延で、其の口の縦広は千由旬も有る。
阿修羅には略して二種が有る。その二つは何か。一つは鬼道の所摂。二つは畜生の所摂。
鬼道の所摂は魔身餓鬼で、神通力が有る。畜生の所摂の阿修羅は須弥山側の大海の底、八万四千由旬に宮殿を持つ。
また起世経によれば、 阿修羅の身の長さは一由旬で、衣の長さは二由旬。広さは一由旬。その衣の重さは半両である。
阿修羅も洗浴を行い、衣服を着る生活を為し、竜と同じく皆婚嫁の習慣が有る。男女の法式は、人間の如し。 諸の阿修羅、四天王天・三十三天が欲を行じる時は二根が合わさり、亦風気が出る。猶諸竜、及び金翅鳥の如し。差異は有ること無し。
阿修羅は三種の事が有って、閻浮提に勝る。其の三つとは何か。一つは寿命が長いこと。二つは形色が勝ること。三つは楽が多いこと。この三事である。

諸の阿修羅は天の須陀妙好の味を以て、食と為す。
また正法念経に説かれる所によると、_修羅の衣食は自然に出現し、冠纓・衣服は純七宝であり、鮮潔さは天と同じで、飲食は念に随って生まれ、皆悉く百味で、天と同じである。 _と。
大論によれば、彼の衣食が復人に勝ると雖も、最後の一口は青泥に変わる。亦竜王が百味を食すと雖も、最後の一口が蝦蟇に変わるが如し。是の故に経に説かれるように、修羅は人に及ばず也。

住居

阿修羅は須弥山の側、大海に底に住み、水は四つの風によって持ち上げられて、宮の上に懸かっている。
正法念経によれば、脩羅の住居は五処有る。一つは地上の衆相山の中に在るもの。其処に住む阿修羅は力が最も劣る。二つは須弥山の北に在るもの。海の底、二万一千由旬に脩羅が有り。 「羅ゴ」と名づけられる。無量の阿脩羅衆を統領する。三つは復二万一千由旬を過ぎた所に住む脩羅。「勇健」という名である。四つは復二万一千由旬を過ぎた所に住む脩羅。「華鬘 」という名である。復二万一千由旬を過ぎて脩羅が有り。「毘摩質多」と名づけられる。毘摩質多が此の中で声を出せば、海の外へ突き出る。
第一の羅ゴ阿修羅王には四の玉女が有り。憶念より生ずる。一つは「如影」という名で、二つは「諸香」という名で、三つは「妙林」という名で、四つは「勝徳」という名である。此の四女には、一一に皆十二那由他の侍女が有って、眷属と為る。皆悉く阿修羅王を囲んで共に娯楽する。情のままに楽を受ける様は説くことができない。第二の勇健阿修羅王の威勢は次に勝り、第三の「花鬘」の威勢は更に勝る。第四の「毘摩質多」 の威勢眷属の数は更に其の倍で、称計することができない。余の臣・妾・左右の僕使の数も亦説くことができない。貴賎の差も有り、一概に論じることはできない。

阿修羅の処に一大樹が有り。「善昼華」と名づけられる。其の幹の縦広は亦七由旬で、枝葉は垂れて覆われ、五十由旬である。

阿修羅所住の城内は種種の衆宝を以て荘厳と為し、蓮華・浴池・林樹が茂り、皆悉く備わっている。真金を地と為し、 其の色は電光の如し。金殿・堂閣・珊瑚・宝樹に宝鈴が懸けられて妙音声が鳴る。種種の音楽で歓娯し、楽を受ける。
一一の池の中に金花は荘厳として、鳧鴈・鴦鴛は皆真金の色を以て厳かに飾られ、見る者は愛楽し、天衆鳥の如し。摩尼を嘴と為し、歓喜、遊戯する。七宝の雑色・青毘琉璃を以て翼 の羽と為し、諸の楼閣・欄楯の間に於いても歓娯・遊戯する。甚だ愛楽す可し。妙音声を出し、見る者は悦楽する。一切の衆鳥も亦復各の如し。清浄にして無穢、端正にして荘厳であり、孔雀・翡翠(かわせみ) は尾と眼は互いに開合し、頭頂には勝冠を被り、群れと為って行動し、華汁を飲む。婆鳩羅華が有って、其の声は雅妙で童子の音の如し。頂には金色、或いは毘琉璃の冠を被り、欄楯の間に於いて遊び 、未だに休息を取ることがない。華汁を恣(ほしいまま)にし、其の目は紺青で、身の彩りは電光の如し。衆色も分明で、鮮明さは電の如し。林樹・山巌の間を行じ、縦逸に遊戯する。華鬘の瓔珞は天の虹色の如し 。光明は身を包み、鬘は荘厳とし、咽喉は美を含んで赤珠の色の如し。両翅は柔軟で蓮華の如し。摩尼の嘴は長く、身の気は香潔で、畢利迦の如し。宮殿を遊戯し、群れと為って行いを同じにし、羽翼は潤沢で、飛 びながら遊ぶ。哀嗚して互いに呼び合い、微妙の音を出し、欲の音を発する。倶枳羅鳥・遮倶羅鳥・婆求羅鳥などの衆鳥が城中に遍満し、林樹の間でも、悉く其の音を聞くことができる。
林樹が多く有り。蓮華の浴池を以て荘厳と為し、其の城の中に於いて、四つの園林が有り。皆金樹であり、一一の園林の縦広は正しく百由旬を満ち、一つは「遊戯」、二つは「耽楽」、三つは「鵝住」、四つは「倶枳羅」と いう名である。此の四つの園林は其の城を飾り、一一の林樹に三千の種が有り。其の樹は金色で、雲の如し。其の枝は柔軟で、鳥は其の上にやどり、衆華は常に撒かれ、香気が遍満して一由旬を満ちる。
群蜂が多く有り。流れる蜜が充満し、或いは金色樹から酒が泉に流れる。牛頭栴檀香樹が有って、其の色は雲の如し。七葉香樹・枳多迦樹・畢利迦樹は微風が吹けば靡き、黒沈水樹・普眼香樹・明灯香樹・摩尼香樹・火色香樹・青無憂樹・赤無憂樹・婆究羅樹・阿枳多樹・阿珠那樹・尼珠羅樹・青荊香樹・堤羅迦樹などの衆華香樹が有り。其の華は敷栄で 、常に新しく出る。
復衆果が有り。摩頭迦樹・鳳凰子樹。婆那娑樹・垂瓠果樹・毘頭羅樹・地蓋果樹・虚空蓋樹・雲色果樹・楽見果樹・遮雲果樹・鳥集果樹・蜂芒果樹・香鬘樹・香華樹などの種種の色華が常に敷かれている。女人が之を見れば皆を楽を生じ て樹に執し、迦卑他樹・波流沙迦樹に葉は備わり、光明は荘厳である。泉池は厳かに飾られ、之を観れば愛楽する。これらの種種の諸樹は、閻浮提の中に於いて生まれることもあれば、或いは欝単越国、或いは阿修羅王の光明城中に於いて生まれる。阿修羅王は遍く遊観し、楽を受ける。采女に囲まれて自ら娯楽する。此の煩悩に於いて、無常にして不堅の、すぐに朽ちてしまうこの楽に染まり、「ここは甘露、不死の地である」と謂う。

寿命

諸の阿修羅のは寿命は千歳。三十三天に同じ。亦中には若死にする者もおる。

阿修羅の始まり

長阿含経によれば、水劫の末時に光音諸天が水に入り澡浴を行う。四大の精気は其の身の内に入り、精流水の中で体は触楽を生じる。八つの風が吹いて泥を洗って中に堕とし、 其処に自然に卵ができて八千歳を経つ。其の卵が開けて一女人が生まれる。其の形は青黒で、猶泥の如し。九百九十九の頭が有り。千の眼、九百九十九の口が有り。一つの口に四つの牙が有って牙の上に火が出でる。二十四つの手が有り、手に皆一切の武器を持ち、其の身は高大で須弥山の如し。大海の中に入って水を叩いて自ら楽しむ。
旋嵐風が有りて大海水を吹き、水精が其の女人の体に入ってすぐに懐任する。また八千歳を経って後に男を生む。身体の高大さは四倍母に勝り、児に九つの頭が有り、頭に千の眼が有って口の中から火が出でる。九百九十九の手が有り、脚は八つ有る。海水の中に於いて自ら 、「我毘摩質多羅阿修羅王である。」と号す。

阿修羅に生まれるのは

業報差別経によれば、十業で阿修羅の報いを得る、と説かれる。
一つは身に微悪を行ず。二つは口に微悪を行ず。三つは意に微悪を行ず。四つは躁慢が起こる。五つは我慢が起こる。六つは増上慢が起こる。七つは大慢が起こる。八つは邪慢が起こる。九つは慢慢が起こる。十は諸の善根を阿修羅趣に回向させる。

また正法念経によれば、此の衆生は前世の時、網を張って囲いを設ける漁猟者を見れば、その漁を遮断させ、衆生の為に利を作り、其の命を活かしてあげる。彼の魚堰を恐し、或いは勢力が有って放生を行わせる。或いは自利の為、或いは名誉の為、或いは王者の為、或いは大臣の為に屠殺を遮断させる。或いは種族を護り、先世に習った不殺の法を行わせる。諸の善を行わず。是の人は身壊れて命終し、阿修羅道に堕ち、阿修羅の身を受ける。寿命は長遠。五千歳を経つ。

勇健阿修羅王は何の業を以ての故に、阿修羅王の報いを得るのか。此の衆生は人の時、喜んで賊盗と為り、他物を偸窃し、正しくない思いを以て、離欲の外道に施し、飲食を充足させしめる。是の因縁を以て、阿修羅の中に生まれる。

また阿修羅は過去の昔、婆羅門の法を習い、第一に聡慧で世間の種種の技術を善く知る。喜んで布施を行じ、広野の中に於いて諸の飲食・果食・根食を施し、清泉の美水、房舎・敷具を施す。又四交路の首に於いて、諸の病人に施し、行路の商人・盲冥・貧窮に房舎を施し、飲食・敷具を悉く満足させしめる。然るに不正見である。
その時弥梯羅林に僧加藍が有り。縦広は二十由旬。其の寺の中に於いて、無量百千の仏塔が有り、宝の輝きは荘厳としている。泥弥王等の五百の大王が共に斯に福を造った為である。中に一塔が有り。真金の瓔珞で鬘は荘厳とし 、七宝は飾り映え、種種に荘校され、其の嘗て聞いた諸仏の名号は、皆悉く如来の影像に描かれ、種種の林樹・池流・泉源の荘厳さは勝妙である。上に説かれる所の如し。
時に「婆利」という名の婆羅門が有り。毘陀論を唱え、広く福業を造る。上に説かれる所の婆羅門の如し。時に是の婆羅門は四千の乗車に飲食を載せて大広野に至り、衆人が路を通るなら 、求めに応じて施しを行おうとする。さて、是の婆羅門は一仏塔を見る。高さは二由旬。広さは五十里。時に悪人が有って火を以て塔を焼き、捨て去る。其の時婆羅門は塔が火に焼かれるのを見て、是の思惟を作る。「我今寧ろ施福の為、如来の塔を救う可きである。此の塔は奇妙にして荘厳。彫飾は精麗で 、広大にして希有である。当に此の火を滅し、塔を壊れないようにさせよう。若し我が救わないことを王が知しれば、重罰を加えるだろう。」其の実は信心に非ず。尊重心に非ず。 而してすぐに四千乗車に積まれた水を以て、此の火を滅する。既に火が滅した後、笑いを含んで言う、「我は此の塔を救った。福徳有り耶、福徳無し耶。若し福徳が有るなら、願わくば我後に大身相を得ん と欲す。欲界に比す者無き者と為らん。」此の願を作ると雖も然るに猶不信・不正思惟であり、常に闘戦を愛して正業を信ぜず。福田力の故、光明城の阿修羅王に生まれる。

諸天との闘争

長阿含経によれば、阿修羅には大威力が有り。而して念を生じて、「此のトウ利天王、及び日月の諸天は我が頭上を行く。日月を取りて我が耳たぶに為さん。」と誓う。大瞋恚を生じ、之に鞭捶を加えんと欲す。そしてすぐに舎摩梨毘摩質多の二阿修羅王、及び諸の大臣に命じて、各兵仗を揃えさせて天と戦う。時に難陀跋・難陀の二大竜王は須弥の周りを七回廻り、山を動かして雲を敷き、尾を以て大海の水を打ち、須弥に波を潅ぐ。するとトウ利天曰く、「修羅は戦わんと欲するのか。」諸の竜・鬼神等は各兵を持ち、闘いに交える。
天が若し負ければ皆逃げ去る。四天王宮は駕を厳かにして、攻伐に向かうより前に先に帝釈に其のことを白す。帝釈は上の、乃至他化自在天まで其のことを告げる。帝釈は無数の天衆、及び諸の竜・鬼に前後を囲まれ、命じて曰く、「我が軍が若し勝れば、毘摩質多阿修羅を五重に縛るだろう。善法堂に連れて行き、之れ看視する。」修羅亦曰く。「我が衆が若し勝れば、亦帝釈を縛り、五重に縛るだろう。七葉堂に連れて行、之れを看視する。」一時、大戦は両陣営とも負傷せず、唯身体に触れて痛悩を生じるだけである。帝釈は身に千眼を現じ、金剛杵を執して頭から煙焔を出す。修羅が之れを見れば退敗する。そして質多修羅を捉えて縛り、還らせる。其の時修羅は遥かに帝釈を見て、すぐに悪口を吐く。帝釈は答えて曰く、「我汝と共に道義を講説せんと欲す。何故悪口を吐くのか。」
天寿の千歳を全うするものの数は少しであり、多くの者が其れより短い寿命で減する。悪心にして闘を好み、而して破戒する。阿修羅は大修布施の故、諂慢を以ての故、此の身を受ける。余経には亦、諂心を以て福を修したが故、此の身を受けるとも。


参考文献
法苑珠林・正法念処経・起世経


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