畜生界 二

龍は大海の中、深さ万由旬の所や大河の中に宮殿を持って住んでいる。龍の身の長さは四十里、衣の長さも四十里、その広さは八十里あるが、体重はそれでも二両半の軽さしかない。神力を備える。
龍でも洗浴を行い、衣服を着る生活を為し、皆婚嫁の習慣が有る。男女の法式は人間と似ている。 龍が交尾する時もまた人間と同じように二根が合わさる。しかしただ其の時は風気のみが出て、不浄が流れることは無い。
龍は三種のことで閻浮提に勝る。其の三つとは何か。一、寿命が長いこと。二、身形が大きいこと。三、宮殿が広いこと。

龍は諸の魚・鼈(すっぽん)・海亀・小龍等の百味の飲食を以て段食と為す。しかし最後の一口は蝦蟇(がま)に変わる。

生まれ方

龍には四種の生まれ方がある。一、卵生。二、胎生。三、湿生。四、化生。これらが龍の四つの生まれ方である。

住居

諸の龍・金翅鳥の住居に一大樹が存在する。其の幹は縦に七由旬の長さが有る。枝葉は垂れて覆われ、五十由旬の広さがある。また 大海の北、諸の龍王の為、及び一切の王の為に一大樹が存在する。「鹿聚」と名づけられる。其の樹根の周りの長さは七由旬であり、根は地中に伸びて二十由旬ある。また其 の樹の高さは一百由旬有り、枝葉は遍く覆われ五十由旬有る。樹の外に園院が有って、縦広は五百由旬である。かきねは七重に為っており、衆鳥が各各和鳴する。
この鹿聚大樹より東面に離れて、卵生の龍、及び卵生の金翅鳥の宮殿が存在する。其の宮は縦広は各六百由旬で、かきねは七重で、衆鳥が和鳴する。
鹿聚大樹より南面に離れて、胎生の龍及び胎生の金翅鳥の宮殿が存在する。これも亦縦広は各六百由旬でかきねは七重で、衆鳥が和鳴する。
鹿聚大樹より西面に離れて湿生の龍、及び湿生の金翅鳥の宮殿住処が有る。これも亦縦広は各六百由旬でかきねは七重で、衆鳥が和鳴する。
鹿聚大樹より北面に離れて化生の龍、及び化生の金翅鳥の宮殿住処が有る。これも亦縦広は各六百由旬でかきねは七重で、衆鳥が和鳴する。

また一切の龍・金翅鳥の住処の水辺には衆花が咲く。最も好ましい者は、所謂優鉢羅花、鉢頭摩花、拘牟陀花、奔茶利迦花である。香気が漂い、柔軟で美妙である。陸に咲く花も有る。最も好 ましい者は、所謂阿提目多迦花、瞻波迦花、蘇摩那花、婆利師迦花、摩利迦花、遊提迦花、殊低沙迦利迦花、羯迦羅利迦花、摩訶羯迦羅利迦花等である。

寿命

寿命は一劫。亦中には若死にする者もいる。

龍に生まれるのは

樓炭・長阿含経によれば、龍は皆先世に瞋恚が多く、心が曲がって質直でなく、大布施を行ったため、龍の形を受ける。先世の施福の故に大海深くの七宝の宮に住する。これが俗に、「龍宮城」と呼ばれる。
起世経によれば、龍因を修し、龍戒を受持し、龍心を発起させ、龍の意(心)を思う。是の業を作った後、彼の因縁の成す所が熟すが故、龍の中に生まれる。

 


悪龍

若し前世に瞋痴を多く行えば、大海の中、深さ万由旬の処に生まれて毒龍の身を受ける。お互いに合間見れば、瞋悩を生じ、瞋心・乱心を以て毒を吐いて互いに害しあう。常に悪業を行う。龍の所住の城は「戯楽」と名づけられ、其の城の縦広は三千由旬で、龍王が中に満ちている。
二種の龍王が有り。一つは「法行」。二つは「非法行」。また一つは「護世界」。二つは「壊世間」という。其の城の中の法行龍王の住居には熱沙が降ることがない。非法龍王の住居には常に熱沙が降る。若し熱沙が頂に触れるなら、その熱さは火炎の如し。宮殿を焼き尽くし、及び其の眷属を皆悉く磨滅させる。滅したら復蘇る。

龍世界の熱沙が降る苦の報いは、何の業因があったためか。此の衆生は人の時に於いて、愚痴であり、瞋恚心を以て僧房・集落・城邑に火を放って焼失させる。このような悪人は身壊れて命終し、地獄に堕ちて無量の苦を受ける。地獄より出でて龍 の中に生まれる。前世の時、火を以て人の村落・僧房を焼いたため、是の因縁を以て畜生の身を受け、熱沙に焼かれるのである。

また何の業を以ての故に、非法を行う龍王は蝦蟆を食うことになるのか。或いは沙土を食し、風を吸って食と為すのか。此の衆生は人の時に、妻子を欺いて独で美食を味わった。其の人の妻子は之を見て恋著し、口の中に涎が流れる。此の人は独りで食い、飽き、満足する。妻子にはただ麁渋(不味い)のものだけを与える。このような人は身壊れて命終し、龍中に堕ち、蝦蟆を食うことになる。或いは沙を食い、風を吸うことになる。

亦福徳の薄い諸の龍が有って、日に日に熱沙によって身を焼かれる。諸の小虫に齧り食われる所と為る。これは人間・畜生が駆役と為って鞭に打たれ、重荷を担がされ、走らされて自在を得られない苦の如し。

悪龍のもたらす災い

海中の戯楽城内に住する諸の悪龍王の行いは正法に不順である。其の名を「波羅摩梯龍王」と言う。此れ等の非法悪龍はどのようにして其の勢力を増長させるのか。諸の衆生が不善法を行い、父母を孝養せず、沙門、及び婆羅門を敬わない。このようにして悪龍はその勢力を増長させる。
また一一の龍王は瞋恚の毒を含んで、互いに闘争を起こして悪雲を起こす。悪風の災雹で五穀を悉く散壊させて収穫を不可能にさせる。諸の衆生が非法を行うが故、悪龍が瞋恚して斯の災いが有る。

閻浮提

悪龍王は閻浮提に於いて大悪身を作る。悪心を以ての故、悪雲雨を起こし、その雨が降った所は悪毒樹を生じる。また悪風で樹を吹き、毒気は水に入って毒水に為る。一切の五穀は皆悉く悪く為り、若し食べる者がおれば、すぐに病苦を得てしまう。穀力が薄いが故、人は短命に為る。是の龍王は悪心により毒の災いを降らし、互に害しあう。是の悪を以ての故に、閻浮提人は悉く皆毀壊してしまう。非法龍が諸悪を作ったが故。

瞿陀尼

非法の悪行龍王は諸の衰患を以て、どのようにして瞿陀尼を悩ますのか。是の非法悪龍は瞿陀尼の山の嶮しい所に於いて洪雨を降らせ、一切の水を皆悉く濁らせる。瞿陀尼人で若し之を飲む者が有れば、此の因縁を以て大衰悩を得る。

弗婆提

諸の世間が正法を修行しないなら、時に悪龍王をその力を増長させ、吼え叫んで大きな雷を作る。大山の崩れるが如し。弗婆提人は心が軟いが故、多くが病苦に遭う。或いは電光が輝いて世界に遍満する。火の燃え盛るが如し。雲中に龍が現れれば眼は車輪のようで、其の身は黒悪で猶黒山の如し。其の首には三つの頭が有り、衆花が奮出する。形は馬相の如し。或いは蛇の身を作り、これらの種種の悪身を現ず。弗婆提人が之を見れば大衰悩を得る。

欝単越

欝単越は第二天の如し。悪龍は欝単越に於いてどのように人に諸の衰悩を加えるのか。欝単越に有る諸の山には蓮華が常に開いて香気が漂い、其の色は妙好で、彼の国の衆人が之を嗅げば歓喜する。若し世間の人が父母に孝行せず、沙門・婆羅門を供養しないなら、時に悪龍王が自在心を以てその勢力を増長させ、大重雲を起こす。猶黒山の如し。その雲は日光を遮らさせる。すると蓮華が閉まって香気が無くなり、金色の光を失う。欝単越人が華が既に閉まっているのを見れば、愁悩して怯える。雲中より出てくる音楽を奏でる風も皆悉く壊乱してしまい、楽しみが無くなる。
このようにして、四天下は悪龍の勢力により衰害を被る。

 


善龍

善龍は何の業を以ての故に、龍世間で熱沙に焼かれる所と為らないのか。此の衆生は前世の時に於いて、諸の外道の世間の邪戒を受け、不清浄の布施を行い、瞋恚心を以て龍の中に生まれたいと願う。是の人は身壊れて命終した後、戯楽城に堕ちる。龍王の身を受けて彼の城に生まれた後、瞋恚心は薄く、福徳を憶念し、正法に随順する。このような龍王は其の身に熱沙の苦を受けない。
また福徳の龍が有って、その報いによって快楽を味わう。妻妾・伎女・衣服・飲食・象馬・七宝が備わらないことが無い。優楽の自在は人を過ぎる。
 

善龍の住居

法行龍王が生まれる戯楽城にはどんな相があるのか。彼の法行龍王所住の城の城壁は輝く七宝でできており、諸の池水には優波羅花などの衆花が咲き、酥陀の食を味わい、常に快楽を受ける。香鬘・瓔珞・末香・塗香を以て其の身を飾り、神通を備え、憶念する所はその念に随って皆得ることができる。其の頭上には龍蛇の頭が有り、其の城中にはさらに他の法行龍王が居る。其の名は七頭龍王、象面龍王、婆修吉龍王、得叉迦龍王、赤龍鉢摩梯龍王、雲鬘龍王、阿跋多龍王、一切道龍王、鉢婆呵龍王という。これらの福徳諸龍の行いは正法に随順である。

又楼炭・華厳経によれば、娑竭龍王は須弥山の北、大海に底に住し、宮宅の縦広は八万由旬で、七宝できており、かきねは七重で欄楯は羅網で、其の上は厳かに飾られ、園林・浴池では衆鳥が和鳴し、壁は金で門は銀で、門の高さは二千四百里も有り、広さはまた二千二百里も有る。飾られる彩画は殊好で、常に五百の鬼神が有って守護する。そして心に随って能く雨を降らせる。群龍の及ばざる所。
又起世経によれば、大海水の下に娑伽羅龍王の宮殿が有り。縦広は正しく八万由旬で、かきねは七重で欄楯も七重で、周りは厳かに飾られ、七重の珠網が掛けられている。復七重の多羅行樹が有り。木の枝が茂って周りを囲み、妙色の楼観は衆宝が荘厳である。所謂金・銀・琉璃・蝦蛄・瑪瑙・琥珀・珊瑚等の七宝の所成である。其の四方に諸の門が各各有り。一一の諸門に重い閣楼が建って敵を退かせる。復園苑、及び諸の泉池が有り。園池には雑色の草花が実る。復諸の樹が有り。種種の枝葉、種種の花果、種種の妙香は風に乗って遠くまで燻る。種種の鳥が和鳴して清亮である。

善龍のもたらす恵み

善龍は善心を以ての故に、時節に随って四天下(閻浮提・瞿陀尼・弗婆提・欝単越)に甘雨を降らし、諸の世間の五穀を成熟させしめる。豊楽安隠にして災雹を降らさず、仏法僧を信じ、その行いは正法に随順し、仏舎利を護る。このような龍王は熱沙の苦が無く、第一の楽を受ける。
若し人が正法に順じ、父母に孝養し、沙門、及び婆羅門を供養し、正法を修行するなら、法行龍王の大力は増長する。正法が勝るが故、微細の雨が降って五穀が熟成し、その色・香味は備わり、諸の災害は無し。果実は繁茂にして衆花の妙色は日月の光で潤う。威徳は明浄である。そして福徳龍王は毒風を放たない。

閻浮提

閻浮提人は四つの因縁が有って命を失うものが多い。その四つとは何か。一、飢倹(飢饉)。二、刀兵(戦争)。三、毒風。四、悪雨。若し諸の世間の行いが正法に随順し、諸の福徳を修すれば、法行龍王の大力は増長し、悪雲を出さず、悪雨を降らさず、悪風の気は無い。水は清くなり、稲穀は豊熟で果味は肥美で、色・香味は備わり、之を食べても病は無く、諸の飢悩を離れ、色力(体力)も備わり、四大は安隠で人は善を行い、其の果報を助けて田稼は豊熟する。法行龍王はこのようにして、正法に順じて善を修める衆生を擁護する。

瞿陀尼

法龍王はどのようにして瞿陀尼を護るのか。瞿陀尼界の衆生の心は軟い。唯一つの悪が有り。水が濁る因縁があって、之を飲むため病に悩まされる。法龍王は彼の世界に於いて、濁水を降らさない。そのため瞿陀尼人は清水を飲むことができ、病悩を逃れることができる。龍の力を以ての故に。

弗婆提

法行龍王はどのようにして弗婆提に楽を与えるのか。弗婆提人が若し雷の声を聞いたり、電の光を見るなら、その心が軟いが故、すぐに病苦を得てしまう。法行龍王は彼の世界に於いて、雷音を作らず、電光を放たない。これにより弗婆提人は病苦に遭わない。龍王の力の故に。

欝単越

欝単越人は何の縁が有って衰悩を得るのか。欝単越に若し黒雲が現れれば、冷風が吹き、香花は咲かなくなる。花が萎んでいるのを見れば、心に憂悩を懐く。黒雲が起こるが故、山にいる鳥の鳴き声は麁悪になり、美音が悉く無くなる。悪龍の所に於いて、此の衰悩を得る。法行龍王は黒雲冷風を吹かさない。
このようにして法行龍王は四天下に於いて、義を以て衆生を安楽させ、利益を作る。

 


参考文献
正法念処経・起世経・法苑珠林


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