地獄界

地獄界

婆沙論によれば、地獄は「不自在」とも名づけられる。彼の罪人は獄卒に捉えられて束縛され、自在を得ることができない。故に地獄 は「不自在」と名づけられる。また「不可愛樂」とも名づけられる。又地獄の「地」は底という意味がある。万物の中でも「地」が最も下の底に在り、地獄も地下深くに存在するが故、「地」に「底」という意味がある。
「獄」は局である。局に拘束されて自在を得ることができない。故に「地獄」と名づけられる。

八大地獄

等活地獄

トウカツジゴク

黒縄地獄

コクジョウジゴク

衆合地獄

シュゴウジゴク

叫喚地獄

キョウカンジゴク
大叫喚地獄 ダイキョウカンジゴク
焦熱地獄 ショウネツジゴク
大焦熱地獄 ダイショウネツジゴク
無間地獄 別名 阿鼻地獄 ムケンジゴク・アビジゴク

地獄の所在

問:地獄は何処に在るのか。答:多分はこの閻浮堤の下に在る。問:どのように安立しているのか。答:有る説 によると、此の洲より四万踰繕那(ユゼンナ)下 に至って無間地獄の底に着く。
無間地獄は縦広・高下は各二万踰繕那有り、その上の一万九千踰繕那の中に余の七地獄が安立する。つまりその上に大焦熱地獄 が有って、その上に焦熱地獄が有って、その上に大叫喚地獄が有って、その上に叫喚地獄 が有って、その上に衆合地獄が有って、その上に黒繩地獄が有って、その上に等活地獄が有る。-新婆沙論-

地獄の火について

この世間に存在する火は地獄中の火熱には及ばない。例えば小石を持って世間の火の中に投げ入れて、夕暮れまで至っても溶けることは無いが、大石を取って地獄の火の中 に投げ入れるなら、一瞬にして溶けてしまうのである。有る人が悪を作るなら死んで地獄中に生まれて、数千万歳死ぬことが無い。
また大竜などが沙石を食べるならすぐに之を消化してしまうが、人が妊娠しても腹の中の子は消化してしまわないように。(胎児には先世の善業があるので胎の中で消化されない)
人の作った善悪はその人に随う。影がその身に随うが如し。人が死ねばただ其の身は亡くなるが其の行いは亡くならない。譬えるなら夜に火を灯して書を作り、火が滅しても字は 残り、火が
再び灯るなら字が現れるが如し。今世の行いは、後世に至って現れる。

地獄に堕ちるのは

前世に重い悪業を造り、命終すると地獄の中に堕ちて諸所の劇苦を受けることになる。地獄の中では悪業が尽きてしまうまで、そこから逃れることはできない。
 

鉄囲山と大鉄囲山

四大洲には八万の小洲と大山がある。須弥山王の外に、別の山が一つある。鉄囲山(テッチセン)と言 う。高さは六百八十万由旬。縦の広さがまた六百八十万由旬。緊密にして牢固。金剛でできている。破壊し難い。
この鉄囲の外に、また大鉄囲山(ダイテッチセン)がある。 大きさは鉄囲山とほぼ同じ。 両山の間は深い黒暗で光が無い。日月の強い光もそこを照らすことはできないほど。そしてこの両山の間にも、八大地獄が有る。

世界の中間には「熱悩」と名づけられる風が吹く。もしこの風が四天下に到ってしまうなら、四天下の衆生は皆砕け散って跡形も無くなる。ただこの鉄囲山と大鉄囲山の二山が壁となっているが故に、この風はここまで到らない様になっているのである。鉄囲山と大鉄囲山はこのような役割がある 。
また、このような風は地獄の衆生を煮る役割がある。煮た後はその地獄の衆生の身肉の脂髄などの不浄な臭穢などを四天下に運んでくる恐れがあるが、もし も其の風が四天下に到ってしまうなら、四天下の衆生は皆盲目になってしまうほど。この風が運んでくる臭気が猛盛の故に。然るに鉄囲と大鉄囲の二山が壁となっているため、この風はここまで至らないのである。鉄囲山と大鉄囲山はこのような役割がある。

閻魔王

鉄囲山の外にも閻魔王宮殿がある。縦の広さは六千由旬。
閻摩の世は三種の事で閻浮提に勝る。一、寿命が長いこと。二、身形が大きいこと。三、自然に衣食が有ること。

問地獄経、及び浄度三昧経によれば、等活地獄を総じて一百三十四界が閻羅王の統領である。
閻羅王は昔し
毘沙国王と為って、維陀始生王と戦うが、兵力が適わないため、地獄の主と為る誓願をてた。その僕の十八人の大臣は百万の衆を治めた。頭には角が有って同時に曰く後に当に此の罪人を助けて治め ん。」と誓いを立てた。毘沙王は今の閻羅王である。十八大臣は今の諸の地獄の小王である。

 


等活地獄

等活地獄とは、此れ閻浮提の地の下、一千由旬にあり。此の地獄は縦広斉等にして一万由旬なり。此の中の罪人はたがいに害心を抱く。模したまたま相見れば、犬と猿との会えるがごとし。各々鉄の爪をもて互いに つかみさく。血肉既に尽きぬれば、唯骨のみあり。或は極卒手に鉄杖を取りて頭より足にいたるまで皆打ちくだく。身体くだけて沙のごとし。或は利刀をもて分々に肉をさく。然れども又 蘇り蘇りするなり。-顕謗法鈔-

寿命

此の地獄の寿命は、人間の昼夜五十年をもて、第一四王天の一日一夜として、四王天の天人の寿命五百歳なり。-顕謗法鈔-

そこにいる衆生の悪業にも上中下の差別があるため、活地獄中の命をまた上中下の差別がある。五百歳を経たず、中間に死ぬ者もいる。業の多少・軽重に応じて、活地獄の一処だけで受けるか、 或いは二処か、三処か、四処か、五処か、六処か・・・このように乃至は十六処まで悪業が尽きてしまうまで苦痛を受けることになる。

等活地獄に堕ちるのは

此の地獄の業因をいわば、ものの命をたつもの、此の地獄に堕つ。螻蟻蚊虻等の小虫を殺せる者も懺悔なければ必ず地獄に堕つべし。譬えばはり(針)なれども水の上におけば沈まざることなきが如し。又懺悔すれども懺悔の後に重ねて此の罪を作れば、後の懺悔には此の罪きえがたし。譬えば盗みをして獄に入りぬる 者の、しばらく経て後に御免を蒙って獄を出れども、又重ねて盗みをして獄に入りぬれば出許され難きが如し。 されば当世の日本国の人は上一人より下万民に至るまで、此の地獄を 免るる人は一人も有り難かるべし。何に持戒のおぼえをとれる持律の僧たりとも、蟻虱なんどを殺さず、蚊虻を誤たざるべきか。況んや其の外、山野の鳥鹿、江海の魚鱗を日々に殺す 者をや。何に況んや、牛馬人等を殺す者をや。-顕謗法鈔-

殺生の業にも上中下がある。それに応じて地獄の受苦もまた上中下がある。問:彼の地獄の業で何が上にあたるか。答:善人を殺したり、受戒人を殺したり、若しは善を行う人を殺したりすること。他にも 殺生心が有って衆生を想像し、其の命根を断じようと欲する。此の業が究竟しても悔やむ心を生じない。他者に向かって殺を讃じて説く。こうして増長する。また他者を殺すことを教える。殺を勧めて随喜する。殺生を讃歎する。殺の使いとなる。これらの痴人は自分で作り、他者にも教える。そして罪業が成就し、命終して活地獄中に生まれる。
 


黒縄地獄

黒縄地獄とは、等活地獄の下にあり。縦広は等活地獄の如し。極卒・罪人をとらえて熱鉄の地に伏せて、熱鉄の縄をもて身にすみうて、熱鉄の斧をもて縄に随って切り裂きけずる。又、鋸を以て 引く。又、左右に大なる鉄の山有り。山の上に鉄の幢を立て、鉄の縄をはり、罪人に鉄の山をおおせて、綱の上より渡す。綱より落ちて砕け、或は鉄のかなえに堕とし入れて煮らる。此の苦、上の等活地獄の苦よりも十倍なり。-顕謗法鈔-

黒縄地獄の衆生は其の昔の不善業の果報の故に、上空に忽然と激しく燃え盛る大きな黒い縄が出現する。此の諸の黒縄は地獄の衆生の身の上に堕ちる。身の上に堕ちた時、すぐにその罪人を焼く。一切の身分は先に其の皮を焼かれる。皮を焼かれた後、次に肉を焼かれる。肉を焼かれた後、次は筋を焼かれる。筋を焼かれた後、次は骨を焼かれる。骨を焼かれたら、最後は髄まで至り、髄が流れ出て火に燃やされる。骨髄が燃える時は大きく猛々しい炎が上がる。 其の時、罪人は極めて重い苦を受ける。しかし罪業の故に命は尽きない。なぜならその昔、人、または非人の時に悪不善業を造ったため、此の獄の中で其の悪業が尽きてしまうまでは、命が滅せず、終わらず、一切を受けることになるのである。
また彼の黒縄大地獄中の衆生は其の宿世の不善の果報の故に、諸の極卒が其の罪人を捉えて、激しく燃え盛る熱した鉄の上に臥せさせる。熱鉄の炎も激しく燃え盛っている。そして熱鉄の縄で罪人の身を交差させて引き裂く。彼の地獄中の衆生の身分は二分され、或いは三分にされ、四分、五分、乃至十分、或いは二十分、五十分、百分にされてしまう。その時罪人は痛悩が酸切し、極めて重い苦を受ける。しかし命は尽きない。彼は昔、人の時、または非人の時に造った諸の不善業のため、此の獄中で一切を受けるのである。
また次に彼の黒縄大地獄の中の衆生は悪業果の故に、上空に極めて大きく猛々しい熱さの大黒縄が有り。それが空より出でて、地獄の衆生の身分の上に堕ちる。その黒縄に触れた瞬間、すぐに絞縛され、罪人の身体は絞りに絞られてしまう。すると風が吹いて一旦縄から解かれるが、彼の衆生の身の皮は黒縄にへばり付いて皆削がれてしまう。皮が削がれたら肉が削がれ、肉が削がれたら筋が削がれ、乃至、骨まで至り、筋骨が破された後、其の精髄が吹かれて風が去る。罪人はその時、極めて重い苦を受ける。しかし命は尽きないこと、上の如し。乃至、悪不善業が尽きてしまうまでは、一切をそこで受ける。

寿命

人間の一百歳は第二のトウ利天の一日一夜也。其の寿、一千歳也。此の天の寿、一千歳を一日一夜として、此の第二の地獄の寿命、一千歳なり。

黒縄地獄に堕ちるのは

殺生の上に偸盗とて、盗みを重ねたるもの、此の地獄に堕つ。当世の偸盗のもの、ものを盗む上、物の主を殺す者此の地獄に堕つべし。-顕謗法鈔-

または有る人が一切が不実の悪見の論によって説法し、其の説法を聞いて正い善戒を一切失い、一切を顧みないで崖から飛び降りて自殺する。彼の人はこの悪業因縁を以て、身壊れて命終し、黒縄大地獄の中に堕ちる。生まれたらその処で大苦悩を受ける。

また悪意を父母・仏、及び声聞に向けるなら、黒縄地獄に墮ちる。苦痛は称計することができない。

 


衆合地獄

衆合地獄とは、黒縄地獄の下にあり。縦広は上の如し。多くの鉄の山、二つずつ相向かえり。牛頭・馬頭等の極卒、手に棒を取って罪人を駈けて山の間に入らしむ。此の時、両の山迫り来て合わせ押す。身体くだけて、血流れて、地にみつ。又種々の苦あり。-顕謗法鈔-

彼の大地獄はなぜ「合」と名づけられるのか。彼の地獄にはその衆生の悪業果の故に、二つの大山が存在する。「白羊口」と名づけられる。激しく燃え盛り、猛々しい熱さである。 すると獄卒が罪人を捉えて此の山の中に連れて行き、入った瞬間、二つの山が合わさる。互いに突き合い、互いに打ちあい、互いに摩擦する。彼の二つの山はこのように共合し、相突相打し、お互いに摩擦しあった後、本 の場所に還る。彼の地獄中の衆生は山が合わさって打たれ、擦られる時、身体の一切の膿血が流れでてしまう。唯砕けちった粉状の骨のみ残る。彼の人はその時、極めて重い苦を受ける。しかし命はまた尽きないこと、上に説かれている通り。

また彼の合大地獄の中にはまた別の山が有る。「鷲遍」と名づけられる。彼の地獄人は身を焼かれた後、飢渇して彼の山に走って行くが、彼の山の中は処処に皆燃え盛る嘴(くちばし)を持った鉄の鷲がいる。彼の鉄鷲の腹の中には「火人」という地獄人がいる。
さて、彼の走ってきた地獄人は救いを望んで彼の山に到るが、着いたら彼の鉄鷲鳥が向かってきて、先に其の頭を穿ち、頭蓋骨を開いて其の脳髄を吸い取り、また其の眼を抜き取ってしまう。彼の地獄人はその時泣き叫ぶが、 誰も救う者はいない。其の頭が破れて脳髄を飲まされ尽きた後、頭を別の処に投げ捨てられる。彼の地獄人は無頭無眼である。
しかしまた暗黒の地獄に走ってゆくが、罪業力の故にまた別の鉄鷲が出現する。其の身は前の鉄鷲に比べて極めて大きい。彼の鷲の腹の中には悉く前の「火人」が入っており、罪人に向かって来て体ごと呑み込んでしまう。彼の地獄人は鷲の腹の中に飲み込まれて「火人」となり、無量百千年歳を焼かれながらそこで過ごす。しかし「火人」は前世に他の妻を侵し、殺生を楽しんで多く犯したため死ぬことができない。

また彼の衆合大地獄の中の衆生は獄卒に捉えられて、鉄臼(うす)の中に放り込まれる。其の臼は激しく燃え盛っている。また獄卒は鉄杵も持っている。これもまた甚だ猛々しい熱さである。そして彼の罪人をひく。 何度も引き回して最後にはただ膿血が一遍に流れ出して、粉状になった骨が残るだけである。其の時、罪人は極めて重い苦を受ける。しかしその時でも命は尽きない。衆苦を遍く受けるのである。
また次に彼の衆合大地獄の中の衆生の上空には大鉄象が自然に有り。激しく燃え盛っており、凄まじい勢いがある。其の両脚を以て彼の地獄の衆生の身を踏み潰してしまう。頭より到って足、と何度も踏まれてぺしゃんこにされてしまう。彼の地獄中の衆生の身分は膿血が垂れ流れ、諸処に散在する。ただ砕けちった骨のみ残る。 其の時、罪人は大重苦を受ける。しかし命は尽きない。こうして次第に遍く苦を受ける。

寿命

人間の二百歳を第三の夜摩天の一日一夜として、此の天の寿、二千歳なり。此の天の寿を一日一夜として、此の地獄の寿命、二千歳なり。-顕謗法鈔-

衆合地獄に堕ちるのは

殺生・偸盗の罪の上、邪淫とて、他人の妻を犯す者、此の地獄の中に堕つべし。然るに当世の僧尼士女、多分は此の罪を犯す。殊に僧にこの罪多し。士女(在家の女)は各々互いにまもり、又人目をつつまざる故に、此の罪をおかさず。僧は一人ある故に、淫欲乏きところに、若しはらまば(有身)、父ただされてあらわれぬべきゆえに、独りある女人をば犯さず。もしや隠ると、他人の妻をうかがい、深く隠れんとおもうなり。当世のほか貴げなる僧の中に、ことに此の罪又多かるらんとおぼゆ。されば多分は当世貴げなる僧、此の地獄に堕つべし。-顕謗法鈔-

 


参考文献
起世経・正法念処経 ・顕謗法鈔・法苑珠林

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