地獄道 二

地獄道 二

叫喚地獄

叫喚地獄とは、衆合の下にあり。縦広前に同じ。極卒悪声を出して弓箭をもて罪人をいる。又鉄の棒を以て頭を打て、熱鉄の地を走らしむ。或は熱鉄のいりだな(煎架)にうちかえしうちかえし此の罪人をあぶる。或は口を開けてわける銅の湯を入れば、五臓やけて下より直に出づ。-顕謗法鈔-

この地獄は何の因縁を以て「叫喚」と名為けられるのか。この叫喚大地獄の中では罪人に向かって獄卒が駆け出してきて、一時にこれらの罪人を鉄城に入らせる。其の城は燃え盛る熱鉄でできており、罪人は鉄城の中で走りまわされ極めて重い苦を受ける。衆苦が切迫し、堪えることができないので常に叫喚する。是の故に「叫喚地獄」と名為けられる。
また彼の獄は熱鉄を以て屋と為し、房室を含めて上下左右の他の全てが熱鉄でできており、楼観や園池も一切が皆燃え盛る炭火なのである。獄卒が罪人に駆け出してきて、また其の中に入らせる。諸苦が切迫し、忍び耐えることができないため、すぐに叫喚する。この故に「叫喚地獄」と名為けられる。罪人は其の中に在って大重苦を受けることなることは、上に説かれているが如し。しかし命は尽きることはない。彼の悪不善業が尽きるまで、次第に 次第に受けることになる。彼の地獄中の諸の衆生は永い間そこで苦を受ける。そして無量の時を経って、此の叫喚獄から出ることができる。出たら馳走して救護の処を求めるが、すぐにまた黒雲沙などの五百由旬の諸の小地獄に至ることになる。入ったらまた前のように、諸の罪苦を受け、最後は寒氷地獄まで入って、衆苦を遍く受けて命終する。

また彼の地獄の中では鉄の鉗(かなばさみ)を以て、無理矢理其の口を開かされ、赤銅汁をその口に潅がれ、飲まされる。初めに其の脣を焼かれ、次に其の歯を焼かれ、歯を焼かれたら次に其の舌を焼かれ、次に咽を焼かれ、このように咽を焼かれたら 次に胃を焼かれ、次第に小腸を焼かれ、大腸を焼かれ、終いには内臓を全て焼かれて下へ流れ出る。彼の人は酒の不善業により、このような報いを受けて泣き叫ぶ。さらに閻魔羅人に前世の悪業を責められながら、無量百千年歳を悪業が尽きてしまうまで、彼の地獄の処で受ける。若しそこから脱することができてここから逃れたいと思い、安楽を求めて余処に向かって救いを望んで走っていっても、彼の人の面前には大鉄烏が出現する。其の身は炎で燃え盛り、すぐに其の身を捉えられ、其の口ばしで脈という脈、節という節を百千分に分散され 、食べられてしまう。このように無量百千年歳を そこで過ごす。然るに彼の悪業は猶尽きることはない。
彼の鉄烏の処でまた脱することができて救いを望んで余処に走っていってくと、飢渇の苦悩により遠くに清い水が溜まった池を見つけて、疾走して向かっていくが、彼の池はただ熱した白鑞汁で満たされているだけである。彼はそこで澡洗せんと欲し入っていくが、悪業の故にすぐに大猛火が起こり 、沈んで熱白鑞汁によって、煮られてしまうのである。このように無量百千年歳、乃至、不善悪業が壊れて尽きてしまうまで、大苦悩を受けることになる。

※白鑞(ハクロウ)は鉛と錫の合金。

寿命

人間の四百歳を第四の都率天の一日一夜とす。又都率天の四千歳也。都率天の四千歳の寿を一日一夜として、此の地獄の寿命四千歳なり。-顕謗法鈔-

叫喚地獄に堕ちるのは

殺生・偸盗・邪淫の上、飲酒とて酒飲むもの此の地獄に堕つべし。当世の比丘・比丘尼・優婆塞・優婆夷の四衆の大酒なる者、此の地獄の苦、免れがたきか。大智度論には、酒に三十六の失をいだし、梵網経には_酒盂(さかずき)を勧める者、五百生に手なき身と生まる、と書かせ給う。人師の釈には ̄みみず(蚯蚓)ていの者となる、とみえたり。況んや、酒を売りて人に与える者を耶。何に況んや、酒に水を入れて売る物を耶。当世の在家の人々、此の地獄の苦、免れ難し。-顕謗法鈔-

若し人が酒を以て僧衆に与えたり、若しは出家の持戒の比丘に与えたり、若しは寂静にある人・羅漢・禅定を楽しむ者などに酒を与えて其の心を濁乱させるなら、彼の人はこの悪業因縁を以て身壊れて命終し、叫喚大地獄の悪処に堕ちる。堕ちたなら彼の地獄中の悪熱により、大苦悩を受ける。
 


大叫喚地獄

大叫喚地獄とは、叫喚の下にあり。縦広前に同じ。其の苦の相は上の四の地獄の苦に十倍して重くこれを受く。-顕謗法鈔-

寿命

人間の八百歳は、第五の化楽天の一日一夜なり。此の天の寿八千歳也。此の天の八千歳を一日一夜として、此の地獄の寿命八千歳也。-顕謗法鈔-

大叫喚地獄に堕ちるのは

殺生・偸盗・邪淫・飲酒の重罪の上に妄語とて、そらごとせる者此の地獄に堕つべし。当世の諸人、設い賢人上人なんど言わるる人々も、妄語せざる時はありとも、妄語をせざる日はあるべからず。設い日はありとも、一期生妄語せざる者はあるべからず。若ししからば当世の諸人、一人も此の地獄を免れ難きか。-顕謗法鈔-

例えば有る人が他人の婦女を犯し、衆人の前、若しは王の前に於いて妄語を説いて、「我実にはこの婦女犯さず。」と言い、返って彼の女の家に罰を被らせる。彼の人はこの悪業因縁を以て 、身壊れて命終し、彼の一切が闇の大叫喚地獄に生まれて、大苦悩を受ける。
 


焦熱地獄

焦熱地獄とは、大叫喚地獄の下にあり。縦広前に同じ。此の地獄に種々の苦あり。若し此の地獄の豆計りの火を閻浮提に置けらんに、一時に焼け尽きなん。況んや罪人の身の柔らかなること綿(わた)の如くなるをや。此の地獄の人は前の五つの地獄の火を見る事雪の如し。譬えば人間の火の薪の火よりも鉄銅の火熱きが如し。-顕謗法鈔-

この地獄は何の因縁が有って、熱悩(焦熱)大地獄と名為けられるのか。此の熱悩大地獄中の衆生は諸の獄卒に捉えられ、激しく燃え盛る熱鉄の釜の中に放り込まれる。頭は皆下に向かい 、脚は皆上を向いている。熱鉄は一向に猛熱で激しく沸騰している。罪人は其の中で煮つめられ、大きな熱悩を受ける。この故に熱悩地獄と名為けられる。
又彼の獄の中は鉄釜・鉄盆、及び鉄でできているもの全てが皆燃え盛っており、罪人はまたその中に在って、焼かれ、煮られてしまう。この故に熱悩地獄とも名為けられる。此の獄中に於いて極めて重い苦を受ける。しかし命は尽きない。彼の人の悪不善業が尽きてしまうまでは一切を遍く受けることになる。また大叫喚大地獄の十倍悪が勝さり、悪業の苦悩の勢力も極悪であるため、焦熱と名為けられる。

寿命

人間の千六百歳は、他化天の一日一夜として此の天の寿千六百歳也。此の天の千六百歳を一日一夜として、此の地獄の寿命一千六百歳なり。-顕謗法鈔-

焦熱地獄に堕ちるのは

殺生・偸盗・邪淫・飲酒・妄語の上、邪見とて因果無しという者、此の中に堕つべし。邪見とは、有る人の云く 「人飢えて死ぬれば天に生まるべし」等云云。総じて因果を知らぬ者を邪見と申すなり。世間の法には慈悲無き者を邪見の者という。当世の人々此の地獄を免れ難きか。-顕謗法鈔-

邪見を楽しんで多く行い、他人に向かって、「いわゆる世間には、布施無し、善無し、悪無し。及びその果報無し、此の世間無し、他の世間も無し、父無し、母無し。 」とこのように断見を以て説き、業果を失い、またさらに他人に説いて随喜させ、その邪見を増長させる。他にも「因無し、業無し、道無し。」とも言う。このような人は、形服が有りと雖も大賊である。彼の人はこの悪業因縁を以て 、身壊れて命終し、悪処―焦熱大地獄の中に生まれて大苦悩を受ける。彼の不信の人は実際に業果の報いを受けることになる。
 


大焦熱地獄

大焦熱地獄とは、焦熱の下にあり。縦広前の如し。前の六つの地獄の一切の諸苦に十倍して重く受くるなり。-顕謗法鈔-

この地獄は何の因縁が有って大熱悩(大焦熱)大地獄と名為けられるのか。彼の大熱悩大地獄の中の衆生は諸の極卒に捉えられ、頭は下を向き、脚は上に向かって釜の中に放り込まれる。其の釜は猛熱であり 、湯火も沸騰して炎々としている。罪人は上下に煮られ打ちのめされる。当に是の時、極めて重い熱悩を受ける。この故に大熱悩獄と名為けられる。また彼の獄中の所有の鉄甕・鉄盆 ・鉄鼎・鉄鐺は皆激しく燃え盛り、罪人は其の中に放り込まれ、煮られ、或いはいぶられ、諸の苦悩を受ける。何度も悩まされながら熱悩は大切迫する。是の故に、最熾猛熱極悩地獄と名為けられる。罪人は其の中で極めて重い苦を受けること、前に説かれている通り。

また彼の地獄人の身は一由旬と大きいが、身は極めて柔軟で生酥(クリーム?)よりも軟らかい。このように、眼を初め、五根などの全ての身が軟く、声・触・色・香で猶能く殺されてしまうほどである。言うまでも無く、余の苦が有る。彼が作った悪業が重きが故に 、身心はこのように皆悉く軟い。彼の人は悪業力の故、極苦悩を受ける。
彼の悪業人が死に臨む時にも、現に業報を受け、大苦悩が有る。前の活地獄中の所有の苦悩を悉く受ける。此の罪人が死に臨む時、先の三日に於いて 、このように苦を受けて、其の命が尽きる。音声を失い、語ることができず、大きな怖畏を憶え、驚く。このように次第に色に怒り、極苦悩を受ける。

寿命

其の寿命は半中劫なり。-顕謗法鈔-

大焦熱地獄に堕ちるのは

殺生・偸盗・邪淫・飲酒・妄語・邪見の上に浄戒の比丘尼を犯せる者、此の中に堕つべし。又比丘、酒を以て不邪淫戒を持る婦女をたぼらかし、或は財物を与えて犯せるもの此の中に堕つべし。当世の僧の中に多く此の重罪有る也。大悲経の文に_末代には士女は多くは天に生じ、僧尼は多くは地獄に堕つべし_、と説かれたるはこれていの事か。心あらん人々ははずべしはずべし。-顕謗法鈔-

殺生・偸盗・邪婬・妄語。酒を以って人に飲ませ、邪見にして不信で、或いは比丘・比丘尼戒を破ぶる。この因縁を以て、大焦熱地獄に堕ちる。

また持戒で禁戒を犯さない浄行の童女、善比丘尼など、未だに欲を行わず、如来の法を行う者を退壊させる。この人は仏法を信ぜず、心にこのように言う。「仏は一切智人に非らず。仏が一切智者でないなら 、何に況や弟子・比丘尼僧の清浄の行いが有るものなど、―このような事は皆これ妄語。虚誑にして不実。この仏法は悪処であり、此に布施する所に非らず。涅槃を得るものは、此れ凡人僧であり 、比丘尼の女の禁戒を破れども、罪を得ず。」彼の人はこのように悪く思惟した後、彼の童女を壊す。比丘尼戒を退かせ、犯戒させる。彼の人は身業・口業・意業の悪不善行により 、身壊れて命終し、悪処−大焦熱大地獄の中に堕ちて大苦悩を受ける。
 


無間地獄

大阿鼻地獄とは、又は無間地獄と申すなり。欲界の最低大焦熱地獄の下にあり。此の地獄は縦広八万由旬なり、外に七重の鉄の城あり。地獄の極苦は且く之を略す。前の七大地獄竝びに別処の一切の諸苦を以て一分として、大阿鼻地獄の苦、一千倍勝れたり。此の地獄の罪人は、大焦熱地獄の罪人を見る事、他化自在天の楽しみの如し。此の地獄の香の臭さを人嗅ぐならば、四天下・欲界・六天の天人皆死しなん。されども出山・没山と申す山、此の地獄の臭き気をおさえて、人間へ来たらせざる故に、此の世界の者死せずと見えぬ。若し仏、此の地獄の苦を具に説かせ給わば、人聴いて血を吐いて死すべき故に、詳しく仏説き給わずと見えたり。-顕謗法鈔-

何の因縁が有って阿毘獄は「阿毘(無間)」と名付けられるのか。 此の阿毘大地獄の中の罪人の目の見る所は唯悪色を見、耳は悪声を聞き、鼻は臭気を嗅ぎ、身は苦痛を受け、意には悪法を念じる。また一切の時に於いて、須臾(一弾指)の安楽も受けることが無い故に、此の大地獄は「無間」と名付けられる。此の大地獄の諸の衆生は無量の時に亙って長遠の苦を受けることになる。

また次に、此の阿毘大地獄の中の衆生は其の不善業の果報を以ての故に、東方より激しく燃え盛る、赤色の極めて大きな火炎が忽然と出現する。その火炎は一向に燃え盛っている。 このように次第に、南西北方の四維、上下から、各各極めて大きな火炎が出現する。罪人は其の時、此の四方の諸の大火炎に囲まれ、段々と迫って其の身に触れる故、諸の痛苦 、大切苦を受ける。命はまた尽きないこと、上に説かれるが如し。彼の獄中に於いて一切を受ける。

また彼の罪人は獄卒に捉えられて身の皮を足より頭の頂に至るまで皆剥ぎ取られ、其の皮に包まれて火車の上に投げ込まれる。熱地の上を何度も引きずり回され、身体は砕け爛れ 、皮肉は堕落して万毒を味わうが、死ぬことはない。

また彼の地獄の中には燃え盛る嘴(くちばし)を持った鳥が有る。其の嘴は堅く鋭い。色は白く、氷の如し。この悪鳥は地獄の中の一切の罪人の身・皮・脂肉・骨髄を皆食らう。また別の鳥が有り。火の中より生まれて、火の中で過ごし、火の中で食する。この悪鳥は地獄人の一切の身肉を食らう。骨を破ぶ られ、骨を破られたら次に肉を破られ血を飲まれ、血を飲まれた後は、次に其の髄を飲まれる。其の時、彼の地獄人は悲しく泣き叫んで悶絶し、大苦悩を受ける。

阿鼻地獄は欲界の最下に有り。此の欲界から色界の上辺、乃至非想非非想天 の両界の上はもう世界が無いように、阿鼻地獄の下にもまた世界は無い。

寿命

此の無間地獄の寿命の長短は一中劫なり。一中劫と申すは、此の人寿無量歳なりしが百年に一寿を減じ、又百年に一寿を減ずるほどに、人寿十歳の時に減ずるを一減と申す。又十歳より百年に一寿を増し、又百年に一寿を増する程に、八万歳に増するを一増と申す。此の一増一減の程を小劫として、二十の増減を一中劫とは申すなり。此の地獄に堕ちたる者、これ程久しく無間地獄に住して大苦を受くるなり。-顕謗法鈔-

無間地獄に堕ちるのは

業因を云わば、五逆罪を造る人、此の地獄に堕つべし。五逆罪と申すは、一に殺父、二に殺母、三に殺阿羅漢、四に出仏身血、五に破和合僧なり。
今の世には仏ましまさず。しかれば出仏身血あるべからず。和合僧なければ破和合僧なし。阿羅漢なければ殺阿羅漢これなし。但殺父、殺母の罪のみありぬべし。しかれども、王法の戒め厳しくある故に、此の罪犯し難し。若し爾らば、当世には阿鼻地獄に堕つべき人少なし。但し、相似の五逆罪これあり。木画の仏像・堂塔等を焼き、かの仏像等の寄進の所を奪い取り、率兜婆(ソトバ)等をきりやき、智人を殺しなんどするもの多し。此れ等は大阿鼻地獄の十六の別処に堕つべし。されば当世の衆生十六の別処に堕ちる者多きか。又謗法の者、此の地獄に堕つべし。-顕謗法鈔-

五逆人は地獄の中での其の身長は大きく、五百由旬であり、四逆人は四百由旬で、三逆人は三百由旬で、二逆人は二百由旬で、一逆人は一百由旬である。
一逆罪の業は阿鼻の火によってその罪人を能く焼き、四天下の衆生、及び山天・阿修羅・諸の竜山・窟洲林・大海を皆焼き尽くしてしまうほど。また若し人が二つの逆悪業を造るなら、その火は二つの大海を 能く焼くほど。若し人が三つの逆悪業を造れば、その火は三つの大海を能く焼くほど。このように四つの業があれば、四つの大海を能く焼く。
 


参考文献
起世経・正法念処経 ・顕謗法鈔・法苑珠林

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